感謝の言葉「ありがとう」は、ただ単に「言葉」を伝えるだけではなく、自分自身の自己効力感や自尊心を高めるために明確な意図を持って戦略的に使うことをお勧めします。
感謝の気持ちを持つことと、それを表す「ありがとう」を口にすることは、人の脳に極めて有意義な変化をもたらすことが近年の研究で明らかになっています。
感謝の気持ちを持ち「ありがとう」と言葉にすると、脳では「幸せホルモン」と呼ばれる神経伝達物質のひとつ、オキシトシンが分泌されます。
その効果は、人とのつながりを実感させ、心の疲れを癒し、精神的な充足感や安定感を与え、心身の疲れがとれるだけでなく、心も体も増々健康にしてくれます。
最も効果のある、体内で生成される精神安定剤とも言えるのです。
カルフォルニア大学ディヴィス校エモンズ教授らは、感謝が幸福感にどのように関係するかの研究を行っています。
「感謝」することの効果
免疫機能が高まる
ストレスが軽減され鬱になりにくい
成長志向や自制心(自己マスタリー力)が高まり成果を出しやすくなる
前向きになれる
レジリエンス力(回復力)が高まる
1.免疫機能が高まる
シンガポール・シンガポール国立大学、ハータント博士らは、2019年に1054人を対象に、インターロイキン6の血中濃度と感謝についての研究を行いました。
インターロイキン6とは身体が炎症を起こしているときにたくさん出るタンパク質で、炎症反応の指標としても使われる。免疫応答や炎症反応の調節において重要な役割を果たしており、主に身体に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除するための役割を担っている。安定した身体状態の維持にとても重要で、長期にわたって過剰に分泌し続けると、さまざまな病態を引き起こすことが知られている。
この研究では、とくに良いことが無くても感謝の気持ちを持っている人は、インターロイキン6が低いことが明らかになりました。逆に、不平や不満を抱えている人は、インターロイキン6が高く、身体が慢性的な炎症を起こし、寿命が短くなったり、不健康になる確率が高くなるそうです。
新型コロナウイルスなどのウイルスによって引き起こされる免疫暴走(サイトカインストーム)との関連も指摘されています。常に、感謝の気持ちをもっていると身体の炎症が抑えられ、指標となるインターロイキン6の血中濃度が低く抑えられる高い免疫機能を獲得しているとも言えます。
2.ストレスが軽減され、鬱になりにくい
ルーマニア・ティミショアラ西大学のタルビューレ博士らは、2015年に113人を対象に感謝の度合いと鬱の度合いを調べ、その相関関係をみつける研究を行いました。
相手に何かしてもらった時だけ感謝するのではなく、人生のポジティブな面に気づき、ありがたく思えると、人間だけでなく、自然や動物などにもポジティブな感情が生まれます。さらに、 困難なことに遭遇しても問題解決に早く行き着くことができ、大変な状況にも順応しやすく、鬱になりにくいといった結果も出ています。
3.成長志向や自制心が高まり、結果うまくいく
米国・ノースイースタン大学のディケンズ博士が2016年に105人を対象にした研究では、感謝と幸福感を評価するタイム・ディスカウント(遅延報酬選択)のテストが行われました。
人の脳には、タイムディスカウント (遅延報酬選択) という特性があります。これは、時間が経つにつれ、その価値を過少に見積もってしまうこと。テストでは「明日報酬を受け取る場合は1万円ですが、受け取る日を1か月遅らせれば、1万5千円になります。あなたはいつ受け取りますか?」という回答の答えと感謝の相関関係を調べました。結果、感謝する気持ちが多い人ほど「将来の大きな報酬」を選択する傾向があることがわかりました。同時に行われた脳の測定によると、忍耐強く待てる人は、成長志向や自制心を表現する際に反応する脳の頭頂葉の部位に大きな反応がみられたということです。
4.前向きになれる
韓国・ヨンセ大学のキョン博士は、感謝しているときには、脳内の状態がどうなっているのか?の研究を行っています。
感謝しているとき、あるいは感謝が常態化している人の脳内では、機能的な複数の領域が繋がり、活動が活発化していることが明らかになっています。一方、怒っているとき、不満や怒りの感情が常態化しているときには、脳内の繋がりが弱くなり、機能的な領域の活動が分断され、動きが低下するということです。また、幸福感を多く感じている人は、ネガティブな状況に陥っても前向きに捉えなおし、脳をポジティブに活発化できるという結果もでています。自分のできることを一生懸命にしようと行動し、前向きに、チャレンジし続けられる人には、うまくいく循環が生まれる理由がわかりますね。
5.レジリエンス力(回復力)が高まる
米国・カリフォルニア大学バークレー校のブレインズ博士は、「自責」や「ダメ出し」が常態化している人と「感謝」をいつも感じている人の意欲のあらわれ方を研究しました。感謝する事が常態化している人は、成長意欲と「やれば自分はきっと出来る」という自己効力感が高く、心が折れにくいということが明らかになりました。また、英・ウォーリック大学の研究では、幸福な気持ちで作業すると生産性が12%向上し、不幸せな気持ちで作業すると生産性が10%下がることが明らかになっています。心理学・脳科学の観点からも感謝の意を大いに口にすること、言葉にして表現することは自己実現の一助となり自己統治能力の基盤と成るとも言われています。
「感謝しなさい。」「ありがとうと言いなさい。」と、強要は出来ません。むしろ、「ありがとう」の効用をよく理解して正しく使う事。感謝を口にする時は、「思いを込めて!」、戦略的に使って行く事が自己効力感を高め、あなた自身の中に、安心や安定を創り出し、人間関係を良好に保つことが出来る体質にしてくれるのです。
最近、「ありがとう」の乱用を体感することが多々あります。・・・口だけ、言葉だけのありがとうです。また、「ありがとう」の代わりに「すみません」を乱用する様子も日本ではよく見受けられ、「あぁ~、もったいない…」とつい思ってしまいます。
「ありがとう」は、人の心を強くし、肯定的なものの見方を鍛えるとても有効な言葉であることをしっかりと念頭に置いていてください。
あなたが創り出す成果のために、一つ上の自分を目指すために。「感謝」の思いがすべての人間関係の基盤にあることを意識しながら、「ありがとう」を使ってみてはいかがでしょう。
コメント