積極的な「あいさつ」の重要性について、著名な心理学者であるアブラハム・マズロー(1908 年~1970 年)が 自己実現理論の中で言及している内容の引用を含め、「あいさつ」の効用を行動科学の視点で改め て説明しています。その一部をご紹介いたします。
人の欲求の最上位に位置する自己実現、 つまり、個人として自らを成長させたいという思いを引き出すためのポイントとなるのがその下位に位置する「承認欲求」の充足である。
組織やチームなど、個人の成長欲求(意欲、向上心)を引き出す事が強く求められる場所において、人の承認欲求を適宜・的確に満たす事は、その人財に充足感(*報われた気持ち) や誇り(*自己肯定感)、自信(*自己信頼)を持たせる可能性を高め、結果、自発的な成長を促すという効果がある点は言うまでもない。その結果、個人ばかりでなく、組織としても成長の速度を速めることにきわめて大きな影響を与えることになる。
それでは、「承認」の欲求を満たすための取り組みとはいったいどのような取り組みか。 承認には、相手の「行動」に対して行うもの(=行動承認)と相手の「存在」について行うもの(=存在承認)の 2 種類がある。
行動承認は、相手が取った行動に対して高い評価を与えることで承認する。 一方、存在承認とは、相手がそこにいるという、その人の存在自体を認めることである。
①行動承認の例
その人物が取った特定の行動や創り出した成果、具体的な効果に対し、ほめる、評価する、ねぎらう、お礼を言う、表彰する、あるいは、直々に謝罪をする、・・・
これが行動承認の事例だ。 このような「行動承認」を実行可能とするためには、評価に値する個人の行動や努力、実績を見逃さないようにしなければならない。しかも、それは、必ず、時間的にも空間的にも公平に行われなければならない。したがって、行動承認を行うためには、ある程度の仕組みの構築が必要となる。「行動承認」は、その人の組織やチームへの貢献に対する「対価」として実施されるべきものであると言えるだろう。
一方で、大したことではないと組織やチームで軽視される傾向が強いのが存在承認である。
②存在承認の例
その人に対して、こちらから積極的に「あいさつ」をする、その人を名前で呼ぶ、服装、髪形、顔色などの個人的な変化に気づく、気になった時に声をかける、話し合う時にしっかりと相手と目を合わせる、更に一歩進めるなら、メンバーとしての具体的な役割を与える、 対話で感じ取った相手の心情に適宜共感する、・・・
このような日々のかかわりが「存在承認」だ。 行動承認と異なり、存在承認は、仕組みを構築すると言うより、組織の中にそのような風土を育成することが重要となる。
上記の比較例を見てもお分かりの通り、存在承認は行動承認よりもさらに簡単にできコストもかからない。 しかし、これを積み重ねると大きな効果を生む。ただ、継続しないと効果は得られない。
「自分から声をかけるのが恥ずかしい」「忙しい中で、積極的にあいさつをするのは面倒だ。」 「やたら声を掛けたら相手から迷惑がられるかもしれない」「相手から反応がなかったら怖い」「忙しいので、すぐに業務をこなすための話をしたい」など、存在承認の行動へ移るまでに、照れ、遠慮、不安、面倒くささ、はたまた、不要論、などがあるかもしれない。
しかし、「自己実現=成長したい」とメンバーが、自発的に思うためには承認欲求が充分に満たされている必要がある。
もし、本気で個人の成長を求めるなら、かなり意識して「承認」する機会を増やす必要がある。
しかし、行動承認には、一定の根拠となる行動や成果が必要だ。そのためには、行動記録等のエビデンス を用意しなければならない。行動承認のみで十分に相手の承認欲求を満たせるか、と言ったら、現実にはそれはそう簡単ではないだろう。
しかし、存在承認は、人々の意志さえあれば頻繁に行うことが出来る。 あいさつは、その最も確実で有効な方法だ。ただ、自分から積極的に相手に「おはよう」と声をかけるだけの事だ。また、しっかりと相手の名前を呼んであげる。これも、その気になりさえすれば、いつでもどこでも実行できる。個人の自己実現に対する欲求を高めることで組織やチームを強靭なものとするために、日々の仲間とのかかわりの中で、一人ひとりにとって、存在そのものが承認されている。と実感出来る環境を用意することが、いかに大切かがわかっていただけただろうか。
まず、リーダーであるあなたから積極的に「あいさつ」をする、1 日 1 回は、メンバーを名前で呼ぶ、そして、 もし可能であればメンバーの誕生会を開くなど、その人の存在を承認することを出来ることから始めて欲しいというのが、私(マズロー)の切なる願いである。
人は、本来、誰もがただ生きるだけの存在以上になりたいという欲求を携えているのだから。
人はコミュニケーションをとりながら生きています。それの基本は、理解する事です。 理解するとは、相手を知り、自分を知り、お互いに知り合う。という事なのです。 そのために最も有効的な方法の一つが「あいさつ」の実践なのです。 それは、ただの形式的な挨拶ではなく、意志をもって行う「積極的なあいさつ」を言います。 相手をよりよく知る力を付けるために、いつでも、どこでも、そして、誰に対してでも、「積極的なあいさつ」を実践することです。 脳科学的に言うと、「積極的なあいさつ」は、「その人にもっと関心を持て!」という指示が発せられたと脳が認識します。自分から積極的に声をかける行動が脳に対して「その人のことをもっと知りたい!」というメッセージの役目を果たし、そのメッセージを受けて脳は、その人に対する興味や関心を高め、相手をよく知ろうとする神経回路を活性化させるのです。 それによって、人間関係構築に関与する神経回路が鍛えられ、あなたの他者理解能力が全般的に向上す るのです。 このように、たかだか、「あいさつ」の仕方を変えるだけですが、このわずかな違いが、あなたの脳の働きに大きな影響を与え、本来あなたが持っている他者を理解する力を活発に動かし着実に高めてくれるのです。 あなたが望む成果を創り出すうえで、「積極的に身近な人たちにあいさつをする」ことが極めて大きな違いを創り出す事を理解し、是非、今から実践してみてください。
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